研究室紹介
研究室の紹介
トライボロジーとは
トライボロジー(Tribology)は,「擦る」を意味するギリシャ語「tribos」と学問を意味する「ology」を組み合わせた造語であり, 相対運動する2つの物体に生じる「摩擦・摩耗現象」と「それを制御する潤滑・表面技術」に関連する科学と技術を取り扱う学問技術領域です.
トライボロジーは「摩擦を科学する」学問分野として,機械工学だけでなく,化学や材料など様々な知識が要求される学際分野であり, 「総合工学」としての化学工学が必要とされています.
日常で使用している様々な機械には,軸受や歯車などの固体同士が相対運動するしゅう動面が存在し, 固体表面の直接接触による摩擦や摩耗が必然的に生じています. 通常,摩擦や摩耗の増大は,機械の寿命・耐久性の低下やエネルギー損失の増大を引き起こす原因となります. したがって,相対運動する固体同士を円滑な動作を与える「潤滑」は, 摩擦や摩耗を低減するだけでなく,摩擦を制御し有効利用するために重要な技術になります.
「潤滑」するための最たる手段が潤滑油です. 潤滑油は,鉱油を主体とした基油に添加剤と呼ばれる極性化合物を加えて構成される液体状の混合物です. 潤滑油に要求される重要な性質として「粘性」と「添加剤」が挙げられます. 特に,接触圧力の増大,速度の低下,基油粘度の低下など厳しい接触条件では, 潤滑油に加えられた種々の添加剤(油性向上剤,摩耗防止剤,極圧剤など)から生成するナノメートルスケールの分子膜(トライボフィルム)が, 相対運動する固体同士の直接接触を防止し固体表面のせん断抵抗を低下する役割を果たします. このトライボフィルムにより潤滑性が付与される状態を境界潤滑と呼びます.
境界潤滑では,トライボフィルム形成に寄与する添加剤と固体表面の摩擦化学反応が生じるだけでなく, 接触界面の物性,潤滑油の粘性効果など多種多様な因子が影響するため,未だに理論化が難しいのが現状です. 用途に応じた適切な潤滑油を開発し,境界潤滑下の摩擦の制御技術を確立することは, 省資源・省エネルギー化の実現へ向けて非常に重要なテーマとなっており, 境界潤滑下における摩擦現象の解明が求められています.
研究テーマ
当研究室では,相対運動する固体表面の摩擦現象,境界潤滑下における摩擦界面のダイナミクス・メカニクスを研究対象として, 潤滑油添加剤,表面改質などのアプローチから摩擦発現機構の解明および摩擦制御技術の確立を目指しています. また,トライボロジーと人間工学の融合を目的として,指の摩擦特性についても研究しています.
最近の研究課題は以下のとおりです.
- 潤滑油添加剤による摩擦の制御
- リン系耐摩耗添加剤と無灰系摩擦調整剤との協奏阻害効果
- リン系添加剤から形成されたトライボフィルムのマイクロトライボロジー
- 表面処理/表面改質との組合せによる摩擦低減効果の確立
- 吸着分子膜の境界潤滑特性に及ぼす表面粗さの影響
- 各種熱処理鋼におけるZnDTPトライボフィルムの成長過程
- 高分子系添加剤と硬質炭素膜との相乗的摩擦低減効果
- 感性/人間工学との融合
- 分子膜被覆固体表面における指の摩擦特性と知覚刺激との関連性